長期修繕計画の策定手順と修繕積立金の算定方法 ― 大阪府の管理組合向け実務

分譲マンションの長期修繕計画は、建物・設備の将来的な修繕周期や費用を可視化し、修繕積立金を計画的に積み立てるための基礎資料です。
大阪府内では、国土交通省が定める「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」に準じ、府条例(マンション管理適正化推進条例)により、計画策定および10年ごとの見直しが推奨されています。
今回のお役立ち情報では「①長期修繕計画の標準構成と策定手順、②積立金の算定方法、③更新管理のポイント」を整理します。管理組合・理事会が自ら主体的に計画を策定するための実務的な視点を提供します。
▼合わせて読みたい▼
BCPから逆算する建物点検の年間計画|停電・水害に強い“大規模修繕”
長期修繕計画の基本構成と策定の流れ

長期修繕計画は、単なる修繕時期の一覧ではなく、建物の維持管理・資金計画を一体化させたマンション管理の中核文書です。
計画の策定にあたっては、国交省・大阪府・マンション管理センターが示す標準様式を基礎に、以下の構成・手順で作成することが推奨されています。
長期修繕計画の目的と標準構成
長期修繕計画の目的は、将来の修繕費用を見える化し、計画的に資金を積み立てることにあります。計画期間はおおむね30年を基準とし、建物全体の主要修繕項目を時系列で整理します。
| 区分 | 主な内容 | 備考 |
| 1.修繕周期の設定 | 外壁、屋上防水、鉄部塗装、給排水更新など | 一般的に12〜15年周期 |
| 2.修繕工事項目 | 工種別に数量・単価を設定 | 仕様書・図面との整合が必要 |
| 3.費用計算 | 各工事項目の概算費用を算定 | 市場単価または積算基準を使用 |
| 4.資金計画 | 修繕積立金の入出金計画を整理 | 年次別収支計算書を作成 |
| 5.添付資料 | 建物概要、設備リスト、積算根拠など | 理事会・総会承認資料として提出 |
大阪府では、国交省が示す「マンション長期修繕計画作成ガイドライン(令和4年改訂版)」を採用しており、これに準拠したフォーマットで作成することが標準的運用とされています。
策定手順―現況調査から合意形成まで
長期修繕計画の策定手順は、現況調査→費用試算→資金計画→理事会・総会承認の流れで進めます。
実務上の主要ステップは以下の通りです。
| 手順 | 内容 | 担当主体 |
| ①現況調査 | 建物・設備の劣化状況を把握(外壁、屋上、配管等) | 建築士・管理会社 |
| ②修繕項目抽出 | 今後30年間に必要な工事項目を整理 | 建築士・理事会 |
| ③費用試算 | 工事項目ごとに数量・単価を設定 | 設計事務所・コンサル |
| ④資金計画策定 | 積立金の入出金・不足額を試算 | 管理会社・会計担当 |
| ⑤合意形成 | 理事会承認→総会決議 | 管理組合 |
このうち、費用試算段階では過去の工事実績単価と市況単価(建設物価調査会等)を併用することが推奨されます。
また、計画策定時に専門コンサルタントを委託する場合でも、理事会が主体的に方針を決定し「外壁改修・防水更新・設備更新」の優先順位を明確化することが重要です。
大阪府の管理組合が参照すべき指針・標準様式
大阪府では、府内のマンション管理組合に対して、以下の指針および様式を参考とするよう案内しています。
| 区分 | 発行機関 | 主な内容 |
| 国交省ガイドライン | 国土交通省住宅局 | 修繕項目リスト、費用算定式、積立金設定基準 |
| 大阪府マンション管理適正化指針 | 大阪府住宅まちづくり部 | 長期修繕計画策定義務・更新周期に関する助言 |
| 日本マンション管理士会大阪支部様式 | 民間団体 | 理事会報告用テンプレート、収支計画書フォーマット |
| マンション管理センター作成ソフト | 一般財団法人マンション管理センター | 計画自動算定・シミュレーション機能付属 |
とくに「大阪府マンション管理適正化推進条例(令和2年改正)」では、一定規模(30戸以上)のマンションに対して、10年以内に計画を作成または見直すことを努力義務として位置づけています。
このため、管理組合は長期修繕計画を一度策定したら終わりではなく、継続的に更新・改善する体制を整える必要があります。
修繕積立金の算定方法と金額設定の目安

長期修繕計画の策定において、最も重要な要素が修繕積立金の算定です。積立金は、30年間に想定される修繕工事費を平準化し、各年の支出を過不足なく賄うための資金計画として設定します。
国土交通省は2021年改訂の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」で、具体的な算定方法と積立水準の目安を示しており、大阪府内の管理組合でもこの指針に基づいた算定が主流です。
国交省ガイドラインに基づく算定式
修繕積立金は、計画期間中の全修繕費用総額を基準に、平準化または段階増額方式で算定します。ガイドラインでは、以下の基本式が示されています。
| 《基本式》
年間積立額=(計画期間内に必要な修繕費総額-現在の積立残高)÷残り年数 例として、30年間の修繕計画における費用総額が1億2,000万円、現時点の積立残高が2,000万円、残り期間が25年の場合: 年間積立額=(12,000万円-2,000万円)÷25年=400万円/年 |
仮に30戸のマンションであれば、1戸あたり月額約11,000円が必要となります。また、積立方式には以下の2種類があります。
| 方式 | 概要 | 特徴 |
| 均等積立方式 | 毎年同額を積み立てる | 長期的に安定するが、初期負担が重い |
| 段階増額方式 | 5年ごとに段階的に積立額を増やす | 初期負担を抑えられるが、将来リスクが残る |
大阪府内では、初期販売時に段階増額方式が多く採用されていますが、物価・工事単価の上昇に伴い、早期の増額見直しが必要な物件が増えています。ガイドラインでは「物価変動や建築コスト上昇率を年1〜2%で見込むこと」が推奨されています。
大阪府内の平均積立水準と修繕周期モデル
大阪府住宅まちづくり部の調査(2024年度版)によると、府内マンションの平均的な修繕積立金水準は以下の通りです。
| 規模区分 | 1戸あたり月額平均 | 修繕周期(外壁・防水) | 備考 |
| 小規模(30戸未満) | 約9,000〜11,000円 | 約12〜15年 | 工事単価上昇傾向 |
| 中規模(30〜60戸) | 約10,000〜13,000円 | 約12〜15年 | 外壁・屋上を同時実施が一般的 |
| 大規模(100戸以上) | 約8,000〜10,000円 | 約15年 | スケールメリットにより効率化 |
同調査では「外壁改修+屋上防水+鉄部塗装」を15年周期で実施した場合、総費用は延床面積あたり8,000〜12,000円/㎡が平均的とされています。
この費用水準をもとに、大阪市中心部のRC造マンション(30戸・6階建・延床2,800㎡)を想定すると
- 15年周期の大規模修繕費:約2,800㎡×10,000円=2億8,000万円(30年で2回)
- 年間平均修繕費:約930万円/年
- 積立金目安(30戸):930万円÷30戸÷12か月=約25,800円/月/戸
この結果からも、販売当初の積立金8,000〜10,000円/月では不足する傾向にあり、理事会・総会での増額検討が不可避となっています。
積立不足時の対応―増額・借入・補助制度
積立不足が明らかになった場合、管理組合には次の3つの対応策があります。
| 対応策 | 概要 | 留意点 |
| ①積立金の段階的増額 | 年次または5年ごとに積立額を引き上げる | 総会決議が必要(区分所有法第30条) |
| ②金融機関からの修繕積立金借入 | 信託銀行・保証会社と契約し一時的に借入 | 金利・返済期間を慎重に設定 |
| ③行政・公的支援制度の利用 | 大阪府・市の省エネ・耐震補助を併用 | 工事項目を明確に分離することが条件 |
大阪府では「マンション管理適正化支援事業」の一環として、長期修繕計画の見直しに係るコンサル費用の一部補助(上限30万円)を実施しています。
また、国の「住宅省エネ改修補助」や「防災・減災対策事業」との併用も可能であり、外壁断熱や防水改修を実施する場合は修繕計画に補助金項目を組み込むことが有効です。
積立金の見直しは、単に金額設定の問題ではなく、長期的な修繕方針(外壁更新・配管改修・防災化)の優先順位と連動させて議論することが必要です。
計画書作成の実務と更新管理のポイント

長期修繕計画は一度作成すれば終わりではなく、建物の劣化状況や工事単価の変動に合わせて定期的に更新する必要があります。
大阪府では「マンション管理適正化推進条例」により、10年を目安に見直しを行うことが推奨されており、実務上は、建物診断結果の反映・資金計画の再試算・理事会承認の3点を繰り返すサイクルが基本となります。
ここでは、計画書作成から更新・管理に至る実務ポイントを整理します。
計画書テンプレートの作成と管理台帳化
計画書の作成にあたっては、フォーマットを統一し、誰が見ても内容を把握できる「管理台帳」として整備することが重要です。国交省および大阪府が推奨する標準フォーマットは、以下の構成でまとめられています。
| 区分 | 記載内容 | 備考 |
| 表紙・概要 | マンション名、所在地、作成年月、作成責任者 | 更新履歴を明記 |
| 建物・設備一覧 | 建築年、構造、戸数、主要設備(給水・排水・電気) | 設備更新時期を併記 |
| 修繕項目一覧 | 外壁、防水、鉄部塗装、設備更新などを工事別に整理 | 優先順位と概算費用を明記 |
| 年次計画表 | 30年間の実施予定・工事内容・予算額 | 10年ごとに区切る形式が一般的 |
| 資金計画表 | 年度別の積立金収入・支出・残高 | 不足額・改定計画を記載 |
| 添付資料 | 建物診断書、見積書、工事写真、議事録 | 将来の監査対応用資料 |
これらをExcelやクラウドベースのフォーマットにまとめることで、年度ごとの更新や再試算が容易になり、理事交代後も継続管理が可能です。
大阪府内の管理会社やコンサルタントでは「マンション長期修繕計画シミュレーションツール」(一般財団法人マンション管理センター提供)を活用し、積立金改定の試算やグラフ表示を行うケースが増えています。
10年ごとの見直しと建物診断の連携
計画の信頼性を維持するには、10年ごとの建物診断結果を反映した見直しが不可欠です。建物の劣化は設計上の想定を超えて進行することもあるため、現況調査の結果に基づいて修繕項目を更新します。
大阪府の「長期修繕計画見直しガイドライン」では、以下の流れが標準化されています。
| 手順 | 内容 | 実施主体 |
| ①建物・設備診断 | 外壁・屋上・鉄部・配管等の劣化調査 | 建築士または管理会社 |
| ②修繕項目更新 | 劣化程度に応じて優先順位を再設定 | 建築士・理事会 |
| ③費用再試算 | 工事単価の最新化・消費税率改定対応 | コンサルタント・会計担当 |
| ④資金計画改定 | 積立金収支を再計算し、不足額を試算 | 管理会社・理事会 |
| ⑤総会承認 | 改定案を理事会承認後、区分所有者総会に諮る | 管理組合 |
劣化診断の周期は10年が基本ですが、外壁タイル・防水・配管設備の劣化が進行している場合は5年周期の中間点検を行うことが望ましいとされています。
また、建物診断は単なる「不具合の洗い出し」ではなく、修繕時期の先送りや優先順位の最適化を判断するデータ基盤として位置付けることが重要です。
専門委託と理事会主導のバランス確保
長期修繕計画の策定・見直しは専門的な知見を要しますが、管理組合が完全に外部委託に依存してしまうと、コストや方針決定に柔軟性を欠くことになります。
したがって、理事会が主体となり、専門家が技術的サポートを行う「協働型体制」が理想的です。
| 役割区分 | 主な業務 | 担当主体 |
| 理事会・管理組合 | 方針決定、修繕優先順位設定、総会報告 | 管理組合 |
| 専門コンサルタント | 計画策定、費用試算、資料作成支援 | 建築士・専門業者 |
| 管理会社 | データ収集、積立金運用状況報告 | 管理会社 |
| 外部監査人 | 会計監査、積立金運用の適正性確認 | 公認会計士・管理士 |
この分担体制を契約書に明記し、理事会が主体的に計画策定・更新の意思決定を行うことで、透明性と実効性を両立できます。
また、外部委託費用の相場は、戸数50〜100戸規模のマンションで30万〜80万円程度です。
大阪府内では、管理会社主導で簡易見直しを行うケースが約6割を占めますが、設備更新を含む本格的な見直しは専門家委託+理事会承認方式が推奨されています。
▼合わせて読みたい▼
20戸規模マンションの大規模修繕費用相場を徹底解説
FAQ|長期修繕計画の策定手順と修繕積立金の算定方法についてよくある質問

長期修繕計画と修繕積立金は、「今払うべき金額」と「将来必要になる金額」のバランスを図るための中核資料です。一方で、国交省ガイドラインや大阪府の指針、管理会社やコンサルタントとの役割分担など、管理組合だけでは判断しづらい論点も多くあります。ここでは大阪府内の管理組合・理事会からよく寄せられる代表的な質問にお答えします。
Q. 長期修繕計画は必ず30年で作成しなければなりませんか?
一般的には30年を標準とすることが推奨されていますが、法令上「30年でなければならない」という義務はありません。ただし、外壁改修や屋上防水、設備更新など大規模な修繕が複数回発生するスパンを見通すには30年程度の期間設定が妥当とされており、大阪府の指針や国交省ガイドラインも同水準を前提にしています。
Q. 修繕積立金が明らかに不足している場合、まず何から見直すべきでしょうか?
いきなり金額だけを増額するのではなく、最初に長期修繕計画そのものを最新の工事単価と劣化状況に合わせて見直すことが重要です。その上で、優先度の低い工事の時期調整や仕様見直しを行い、それでも不足する部分について均等積立か段階増額かを検討します。金融機関からの借入や補助金活用は、更新した計画を前提に位置づけるのが望ましい対応です。
Q. 管理会社主導の簡易シミュレーションだけで長期修繕計画を決めてしまっても大丈夫ですか?
短期的な目安を把握するには有効ですが、中長期の資金計画や設備更新を含めた本格的な見直しには不十分な場合があります。特に築20年以上のマンションや設備更新を控えた物件では、建築士や専門コンサルタントによる建物診断と費用試算を組み合わせることが望ましく、管理会社のシミュレーションはあくまで「たたき台」として活用するのが安全です。
大阪府の長期修繕計画と積立金見直しを安心して進めるためにもご相談ください

長期修繕計画の策定や修繕積立金の見直しは、単にエクセル上で数字を合わせる作業ではなく、建物の寿命、住環境の質、将来の資金負担を総合的にデザインするプロジェクトです。
大阪府内では国交省ガイドラインやマンション管理適正化推進条例を踏まえた10年ごとの見直しが推奨されていますが、実務では「どの修繕をいつ優先するか」「どの水準まで積立金を引き上げるか」といった判断に理事会が悩むケースが少なくありません。
株式会社エースでは、建物診断結果と市場単価を踏まえた長期修繕計画の再構築、国・大阪府の支援制度との連動、均等積立・段階増額シナリオの比較検討などを通じて、管理組合・法人オーナーが合意形成しやすい計画づくりをサポートいたします。
現在の積立金で将来の大規模修繕に対応できるか不安がある場合や、販売当初の計画が現状と乖離していると感じられる場合は、まず現行計画と積立状況の診断からご相談ください。
お問い合わせは、問い合わせフォームからのお問い合わせのほか、メールや電話でのご相談、ショールームへのご来店にも対応しております。早い段階で専門家と一緒に数値と工事計画を整理しておくことで、将来の急激な値上げや一時金徴収を抑え、居住者にとって納得感の高い長期修繕・資金計画の実現につながります。
▼合わせて読みたい▼
株式会社エース|会社情報
無料相談・お見積りはこちら
物件の状況・ご計画に即した最適解をご提案します。下記に物件概要とご要望をご記入ください。担当者が内容を精査のうえ、概算費用・工程案・進行スケジュールをご連絡します。
※ 営業のご連絡はご遠慮ください(誤送信時は対応費 5,000円のご案内あり)。