建築設備の定期検査“要点だけ”|項目・頻度・不適合と“大規模修繕”の優先順位

建築物の安全・衛生・避難性能を維持するためには、建築基準法第12条に基づく「定期報告制度」が不可欠です。特に建築設備は、目に見えにくい部分で火災や衛生事故を防ぐ要となる領域であり、報告の遅れや不備が是正命令・使用制限に直結する場合もあります。
本来この制度は、行政指導ではなく所有者・管理者自身の「維持保全義務」の一部として位置づけられています。点検・報告・是正までのサイクルを正しく理解すれば、不要なやり直しや大規模修繕時の二重工事を防ぐことも可能です。
今回のお役立ち情報では「建築設備の定期検査の項目・頻度・是正と大規模修繕の優先順位」について解説します。
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建築設備定期検査の位置づけと頻度の基本

建築設備の定期検査は、建築基準法第12条第1項および第3項に基づく「定期報告制度」の一部として定められています。所有者または管理者は、特定行政庁が指定する資格者による検査・調査を受け、その結果を毎年報告する義務があります。
ここでは制度の位置づけ・対象・頻度を整理します。
定期検査の法的根拠と対象範囲
建築設備に関する定期報告は、建築基準法第12条第1項及び第3項、並びに建築基準法施行規則第16条の2等に根拠を持ちます。
対象となる「建築設備」とは、法令上次の4設備に限定されています。
- 給排水設備
- 換気設備
- 排煙設備
- 非常用の照明装置
これらは人命・衛生・避難に直結する機能であり、設置基準(建築基準法施行令第129条の2等)に適合しているかを確認します。報告義務者は原則として建物の所有者または管理者であり、検査業務は建築設備定期検査資格者(建築士・特定資格者等)に委託して実施することが可能です。
防火設備(防火戸・シャッターなど)や昇降機(エレベーター等)は、同じ第12条制度の中でも別区分として扱われ、個別の報告書で提出します。これらを混同しないことが、提出差戻しを防ぐ基本になります。
なお、建築物全体の「定期調査報告」(外壁・避難設備等)とは別報告です。設備報告は機能維持に直結するため、1年周期での実施が義務付けられています。
報告頻度と行政区分の違い
定期報告制度では、建築設備・防火設備・昇降機=1年以内ごとに1回、建築物(特定建築物)=3年以内ごとに1回が基本サイクルとされています。(建築基準法施行規則第16条の5)
ただし、報告書の受付・提出方法は特定行政庁ごとに運用差があり、代表的には次のように分かれます。
- 東京都:電子申請システム(押印不要、PDF添付提出)
- 大阪市・名古屋市:郵送または窓口提出併用
- 政令市・中核市:独自フォーマット・チェックリスト採用
この差異は制度上の地方分権によるもので、報告対象施設の規模・用途によっても運用が変わります。
また、2021年以降の法改正により押印義務が廃止され、電子提出の導入が全国的に進んでいます。これにより、法人・管理組合にとっての手続き負担は大幅に軽減されました。
ただし、自治体によっては「報告書副本の保存」「写真データの提出方法」「不適合箇所の再報告期限」など独自運用が残っており、本庁サイトの最新要領を都度確認する必要があります。
2025年7月施行の法改正ポイント
2024年6月28日に公布された国土交通省告示第713号では、建築設備の定期検査に関する判定・実施要領が改正され、2025年7月1日施行予定です。
主な改正点は次の通りです。
- 換気・排煙・可動式防煙壁・非常用照明等の「作動確認」を「詳細な検査」に統合
- 判定基準表の見直しにより、定量的な測定結果の記録義務を明確化
- 防火設備・昇降機との報告書様式の統一・整理
この改正により、これまで作動の有無のみを確認していた検査が、性能・保持時間・作動信頼性まで踏み込む「検査型制度」に変わります。
とくに非常用照明では、照度・保持時間・蓄電池の劣化度を具体値で記録する必要があり、従来よりも測定・写真提出の精度が求められます。
また、自治体によっては2025年度中の経過措置(旧様式使用可)を設ける見込みもあるため、発注・報告時期を跨ぐ場合は必ず旧・新様式の適用区分を確認しておくことが重要です。
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定期検査の項目と判定基準の読み解き方

建築設備定期検査の報告書は「点検結果票」と「判定票」の2部構成になっており、単なる作動確認ではなく、各設備が建築基準法施行令の技術基準に適合しているかを検証します。
検査資格者が行う確認は、外観・作動・測定・判定に区分され、いずれかが基準を外れた場合は「不適」と記載されます。
ここでは代表的な設備別に、どの項目をどう見れば適否を判断できるのかを整理します。
給排水設備の検査項目
給排水設備の検査は、水の安全性・逆流防止・排水機能の確保を目的に行われます。基準は建築基準法施行令第129条の2および第129条の3に規定され、以下の確認が中心です。
- 給水圧力・水撃防止装置:上層階まで適正圧が確保されているか、急閉止による水撃音が発生していないか
- 逆流防止構造:ポンプや受水槽出入口に逆止弁が設置され、逆流防止構造になっているか
- 貯水槽の衛生状態:槽内の沈殿・藻類・漏水の有無、マンホールや通気口の密閉性
- 排水設備の通気・封水:トラップ封水の深さ(一般に50mm以上)を確保し、通気不良・悪臭・封水切れがないか
これらの確認結果をもとに、衛生上の支障があれば「不適」、軽微な劣化や汚損は「要是正」として扱われます。
排水通気や封水切れは居室環境に直結するため、衛生・臭気トラブル防止の観点で早期対応が推奨されます。
また、ポンプや制御盤を更新した際には性能証明書(型式・電圧・容量)を報告書に添付しないと行政審査で差し戻しとなるケースがあります。
換気・排煙設備の検査項目
換気・排煙設備は、平常時の空気環境維持と火災時の避難安全確保の両面で、最も重点が置かれる検査区分です。建築基準法施行令第129条の3の2および第129条の4に準拠して行われ、主な検査内容は次の通りです。
- 換気設備
・無窓居室・厨房・機械室など対象室の換気風量測定(所要風量を満たすか)
・吸込口・排気口・フィルターの汚損、風量バランスの偏り
・制御盤・スイッチ類の作動、非常停止・自動起動の確認
・換気ファン・ダクト内の閉塞・異音・振動
- 排煙設備
・排煙口・排煙ダンパーの開放動作、連動装置(感知器・手動起動)の作動
・電源切替(非常電源からの供給)および作動信頼性
・排煙風量および排煙経路の閉塞確認(フィルター詰まり、ルーバー腐食など)
・作動試験時の写真・動画記録(自治体により必須)
とくに排煙設備は火災時に正常作動しないと重大事故に直結するため「作動不良」「電源切替不可」「開放しない排煙口」が一つでもある場合は即時是正対象となります。
2025年7月施行の改正告示では「作動の有無」ではなく機能の維持状況を含む詳細な検査が義務づけられ、風量測定・電圧確認・作動試験が統合的に求められます。
したがって、換気・排煙系統の点検記録は経年比較可能な測定値として残すことが、次年度以降の報告精度向上に直結します。
非常用照明装置の検査項目
非常用照明装置の検査では、避難時の照度確保と点灯保持時間を確認します。建築基準法施行令第126条の5、第129条の5および国土交通省告示第183号等を根拠とし、
次の項目が中心です。
- 照度測定:床上0.8mの高さで1lx以上(廊下・階段は0.2lx以上)を基準に測定
- 保持時間確認:停電時でも30分間以上点灯を維持できること
- 蓄電池の状態:容量低下・膨張・端子腐食などの有無
- 点検スイッチ・自動点灯回路の作動
- 照明器具の破損・取付状態・錆腐食
LED照明への交換が進む中で、LED化=点検不要という誤解が生じやすいですが、蓄電池内蔵型ではバッテリー劣化による照度不足が頻発します。検査資格者は照度計測器で実測し、照度不足・保持時間不足は「不適」判定とします。
2025年改正後は、この照度・保持時間の定量データ提出が義務化されるため、写真のみの報告では不備扱いとなります。また、共用部の非常照明が老朽化している場合は、大規模修繕計画で器具更新+蓄電池交換を一体化するとコスト効率が高く、行政報告の適合維持にも有効です。
不適合時の是正・修繕計画の立て方

建築設備定期検査で「不適」と判定された箇所は、報告書の提出で終わりではなく、是正報告の提出または改善工事の実施が義務づけられます。不適合を放置したまま次年度報告に移ると、特定行政庁からの指導・勧告・報告再提出を求められることがあります。
ここでは、リスクを最小限に抑えながら効率的に是正・修繕を進める手順を整理します。
不適合の優先順位を決める基準
不適合項目は、単に「点検結果の不備」ではなく、人命・衛生・法令適合性に関わるリスクレベルで整理するのが基本です。
優先度の考え方は、以下の3階層に分類できます。
- 最優先:人命・避難安全に関わる系統
排煙設備の不作動、非常用照明の不点灯・保持時間不足、可動式防煙壁の不作動など、火災時に避難が妨げられる内容は即時是正。
行政も「人命リスク項目」は指導レベルが高く、30日以内の報告を求める自治体が多い。 - 中位:衛生・快適性に関わる系統
換気不足、封水切れ、逆流防止弁の機能低下など、平常時に健康や衛生に影響する項目。
報告後3〜6か月以内を目安に改善するのが望ましい。 - 下位:性能・更新計画で対応できる項目
経年劣化や省エネ非適合(老朽機器、配線不備、劣化塗装等)などは、年度修繕・中期修繕計画での対応が現実的。
このように「命に関わるもの」「衛生に関わるもの」「性能に関わるもの」という軸で整理すれば、報告書をそのまま修繕優先表として活用できます。
とくにマンションや複合施設では、管理組合・テナント・オーナーの合意形成に時間がかかるため、優先度区分を明示しておくことが重要です。
是正の実務と報告書作成のポイント
是正工事は、単に修理を行うだけではなく「是正の証拠を添付して再報告」するまでが法的義務の範囲です。行政が重視するのは「是正完了が技術的に確認できるか」という点です。
実務上のポイントは以下の通りです。
- 証跡の整備
是正前後の写真(同一アングル)、測定値の記録、使用部材の仕様書(カタログ可)を添付する。 - 判定根拠の明示
報告書の備考欄には「告示第○号 第○条に適合」「照度○lx→○lxへ改善」など、条項ベースで根拠を明記する。 - 再検査の要否
軽微な是正(フィルター清掃、封水補充など)は報告書で完結できるが、作動系統(排煙・照明)の修理は再検査証明を添付する必要がある。 - 行政対応の流れ
是正完了報告→行政確認→是正済承認書受領→次年度報告へ継続。
再指摘があった場合は、指摘内容に応じて追加報告を行う。
とくに2025年施行の新判定基準では「詳細な検査」と「報告書のエビデンス一体化」が求められます。つまり、写真・測定値・判定理由を一体で提出しなければ「是正済」とは認定されません。
検査業者選定時には、是正報告フォーマット(Excel・PDF)を行政対応仕様に整備しているかを確認すると安全です。
大規模修繕との連動でコスト最適化
是正工事の内容によっては、大規模修繕の周期と重ねることでコストを半減できます。建築設備はおおむね以下の更新周期で検討されます。
- 換気・排煙ファン:15〜20年
- 給水ポンプ・制御盤:10〜15年
- 非常用照明装置(蓄電池含む):8〜12年
これらの更新時期を「定期検査での不適合内容」と突き合わせれば、修繕優先順位を合理的に整理できます。
たとえば、排煙ファンのモーター異音や軸振動で要是正となった場合、単独修理ではなく全系統更新+防火シャッター制御統合改修を同時実施すれば、足場・電源工事を共有でき、施工費を30〜40%圧縮できます。
さらに、省エネ改修(インバータ化・LED化)を組み合わせることで、建築物省エネ法・既存建築物省エネ改修補助金の対象にもなり得ます。
管理組合や法人施設では「12条報告に基づく是正工事」=法定保全費用として計上できるため、予算承認を得やすいのも利点です。
計画の基本は、年次是正(短期)+更新整備(中期)+大規模修繕(長期)という3層構成で資金配分を設計すること。
この仕組みを確立すれば、法令順守・安全確保・コスト最適化のすべてを両立できます。
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エースが支援する「建築設備定期検査+修繕優先順位」――法改正対応とコスト最適化を同時に実現

2025年7月の法改正により、建築設備の定期検査は「作動確認」から「性能検証型検査」へと進化します。つまり、これまで以上に測定・記録・報告の精度が求められ、企業・管理組合・施設管理者にとっては技術的な裏づけと是正計画の一体管理が不可欠です。
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とくに換気・排煙・非常照明・給排水設備の改修は大規模修繕と重ねることで、最大40%のコスト削減が可能です。建築基準法改正対応の準備や、既存建物の検査スケジュール見直しをご検討の法人様は、ぜひ株式会社エースまでお問い合わせください。
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